まだ社会人になって2年とか3年くらいしか経っていなかったある日の夜。
20時ごろだったと思います。玄関のチャイムが鳴りました。なんの宅配も頼んでないので謎でしかありません。
放っておくのも気持ち悪いので、チェーンをかけたままドアを開けると、20代の若いスーツ姿の男が立っていました。
「株式会社〇〇です~」と腰の低い笑顔で挨拶してきました。そして不動産の話をしたいと丁寧な言葉遣いで話してきました。
怪しい~!社会人歴の浅い僕でも怪しとわかったので断ろうとしたのですが、この男なかなか引きません。
男「ドアが間にあるなんて寂しいじゃないですか~、玄関までしか入らないので中でお話させてくださいよ~」
めちゃくちゃ下手に出て情に訴えてくるんですよ。あと「玄関まで」と制限を付けることで安心させにきている。若いくせに手練れ…!
僕「…じゃあ先に名刺もらってもいいですか」
男「すみませんー、今切らしちゃってるんですよー」
じゃあ出直して来いよ!と思いましたが口に出せるわけもなく。
今振り返ると、名刺は出さないというマニュアルがあるんでしょうね。一回名刺を要求して乗りかかってしまった事、そして相手の腰の低さや個人的なわずかな好奇心から、チェーンを外して招き入れてしまいました。
まさか、この男とあんなに長い時間一緒にいることになるとは思いませんでした。この時は。
招き入れると、完全に男のペースで話が進んでいきました。若いのに場数踏んでる。
男「ありがとうございます~。あの、資料を開きたいので、床使わせてもらって良いですか?」
ずっと立たせておくのも申し訳ないという罪悪感からOKする僕。こうやって少しずつ譲歩させて、長居する準備を整えるんでしょうね。本当にマニュアルがしっかりしてる。
営業の内容的には、今賃貸に住んでいるけど家は買った方が良いと。特に老後は家を借りにくくなるので不動産の購入したほうが良い。だからまずセミナーに来てくださいというものでした。家の営業ではなく、あくまでセミナーの案内ですと。
行くわけないですよね。
もう絶対行っちゃいけないセミナーじゃないですか。セミナーへの勧誘でこれだけ強引な方法使ってるんですから、行ったらどんな強引でヤバいやり方で契約させられるか、わかったもんじゃありません。
僕「いや、セミナーは大丈夫です」
男「え?どうしてですか?不動産に興味あるのに行かないっておかしいですよね?」
この辺りから雰囲気が変わってきます。「いやいやセミナー行くしかないっしょ」みたいな空気を醸し出してきます。そういえば下手に出るような笑顔もなくなりました。
そもそも、「不動産に興味ある」っていうのも男が強引にそう言ってるだけですからね。生きている以上、住まいとは切り離せないので、色んな質問に答える中で勝手に「なんだ、不動産興味あるんじゃないすか~」みたいな結論にさせられて、強引に「僕は不動産に興味がある」前提の勧誘が始まっていたんです。
あと男は不動産の話だけじゃなく、個人情報も結構聞いてきました。
どんな仕事なのか、年齢、社会人歴などなど。出身地とかも聞かれたような気がします。
で最終的には年収まで聞いてきました。
いやさすがに年収は言いたくないわ、と思って「いや年収は別にいいじゃないですか」みたいにはぐらかしたんですが、これまたしつこく聞いてくるんですわ。
「なんで言いたくないんですか?」って聞いてくるけど、普通初対面の訪問営業に言わないよ!そしててめえが怪しいからだよ!あと人に自慢できるような金額じゃないからだよ!
しかし男はしつこいしつこい。
男「がっかりというか残念ですよ。こんなに山本さんと時間かけてお話したのに、理由もよくわからず年収教えてくれないなんて」
なんか言わない僕が悪いみたいな言い方してくるんですよ。僕が非情なヤツ、非常識なヤツみたいな。
結構押し問答が続いてらちがあかないので、根負けして言っちゃいました。おおよその金額だったらいいかと思って「だいたい〇〇〇万円くらいっすかね~」と教えてあげました。
これも「答えやすい内容から徐々に聞いていく」のがミソなんでしょうね。本当にマニュアルがしっかりしてらっしゃる。それをちゃんと遂行するこの男も相当訓練されますね。
気が付くと、セミナーに行く行かないの話から、年収の金額に話がシフトしていました。
そして男の笑顔はとっくに消えており、もう男の方が上からオラオラくるようになっていました。
男「『だいたい〇〇〇万円』って言ってましたけど、それ間違いないんですか?」
伝えた年収が間違いないかやけにしつこく聞いてくるんです。細かいオトコは嫌われるゾ!
もうかなり居座られているので、いい加減帰ってほしいし、イライラも溜まっていたので、どんな反応するかなと思って言ってやりました。
僕「あの僕、早くポケモンやりたいんでそろそろ帰ってもらっていいですか?それでもまだ居るなら、ポケモンやりながら話聞きます」
そう言ってゲーム機を手に取りました。さあ、どうでる男よ…!
男「…はぁ。山本さん、自分が何言ってるかわかってます?人が一生懸命話しているのをゲームやりながら聞くんですか?山本さん社会人ですよね?それって社会人としてどうなんですか?自分がやられたらすごく嫌な気持ちになりません?」
うぐぅ…!
悔しいかな、その意見自体は非常に正論でした。
男「この件について、謝ってもらえますか」
僕「…確かにゲームやりながらは失礼だったと思います。すみません」
いや、僕謝罪させられてんじゃん。もうサイコパスだよこいつ。
男「なんだかこの件で山本さんのこと信用出来なくなっちゃいました。本当の年収言ってるんですか?給与明細みせて確かめさせてもらえますか?」
コイツ…初対面の怪しい訪問営業のクセに給与明細の提示を求めてきやがったんです。
でも強く断れません。謝っちゃってるし、もう完全に男の方が立場が上になっているからです。
僕「いや、給与明細はさすがにちょっと…」
男「なんでそんなに見せたくないんですか?」
てめえが初対面で信頼ならねぇ人物だからだよ!ママのおっぱいしゃぶるところからやり直せや!
と思いましたが、とても言える雰囲気ではありません。
だいたい、逆になんでそんなに正確な年収がしりたいんだよ!
僕「いや書類をみせるのは違うんじゃないですか」
男「同じじゃないですか。どうして口頭では言ってくれたのに書類はダメなんですか。言ってた金額よりも、本当はもっと多いから見せたくないんじゃないですか?」
男のこの言葉で気が付きました。この男にとって、住人の年収を確認するのは重要なミッションなんだと。
第一ミッションがセミナーの勧誘。第二ミッションが年収の確認。これで不動産営業の顧客にふさわしいか今後もアプローチすべきなのか確認したいんでしょう。
男は若いから下っ端でしょうし、何かしらミッションを達成しないと帰るわけにはいかない事情があるんでしょう。過酷でエグイ仕事内容にちょっと同情してしまいました。
男「…」
僕「…」
不穏な空気の中、沈黙が流れます。カップルが別れる間際のケンカも、こんな雰囲気なんじゃないでしょうか。知らんけど。
しびれを切らした男が口を開きます。
男「年収がわかるもの見せてもらったら帰りますよ」
年収が重要な要素だと気付いたこと、そして男の雰囲気から給与明細を見せたらこの不毛なやりとりが終わると感じられました。
正直、給与明細を見せてしまうのは僕の負けなのですが、僕も結構限界だったので、これで終わりにしようと明細を見せました。
男「×××万円ってありますけど、言ってた〇〇〇万円より少ないですけど…」
僕「あのー〇〇〇万円は賞与が満額出てたらの金額でしたね。実際は満額出なかったんでこの年収だったみたいです」
いやめちゃくちゃ恥ずい!
男は警戒されて年収を低く言ってるんじゃないかと思ってたのに、実際蓋開けてみると申告より少なかったという。
これじゃただ見栄張って年収高く盛ってた人じゃん、僕。
僕の説明に納得したのかどうかは不明ですが、男は資料を片付け始め来た時ぶりに立ち上がり、僕に言いました。
男「この年収じゃ不動産は無理っすね」
うぐあああああああ!
てめえから押し掛けてきたんだろうが!!
あの粘りが嘘のようにあっという間に帰っていきました。
部屋に戻って時計を見ると22時半近かったです。いや2時間半近く居座られたんかい!
調べると同じような体験談がたくさん出てくるので不動産の訪問営業は良くある話っぽいですね。
今度来たら我慢比べしてやる!と意気込んでいましたが、あれから二度と不動産の訪問営業は訪れません。
それじゃまた
■関連記事