久しぶりに小説を読みました。
個人的に外れなし作家、奥田英朗の「向田理髪店」です。
主人公は北海道の片田舎で理髪店を営む向田康彦53歳。
なんてことない街のなんてことない中年の主観で6本の短篇が進んでいきます。
奥田英朗さんは日常のなんてことない日々の起承転結を鮮やかに描く方という認識なんですが、この短編集は、さらに平凡な中年の日々を描いていて、まあ言っちゃえば結構地味。もちろん面白いんですけどね。
ざっくりそれぞれの短篇をまとめると、
・息子が家業を継ぐと言い出す話
・近所のおじいさんが入院する話
・近所の40歳独身男が中国人と結婚する話
・近所に新しいスナックがオープンした話
・住む町が映画撮影のロケ地になる話
・地元出身の若者が指名手配されてあたふたする話
地味だって!サザエさんレベルの日常感!
それをひとつの話としてまとめるのはさすがの技量だなと思います。
本当に日々のある出来事に焦点を当てているだけなので、明確に何か事件が起きて、奮闘の結果解決するわけではないんです。日々過ごしていたらこんなことが起こって、こんな感じになり、日々は続く…。
著者自身も栃木出身で、たしか大学入学とともに上京しているので、田舎の描写はリアリティがあるのよね。だから主人公の向田は、著者が田舎にもどったらこんな感じだったんじゃないかというパラレルワールドみたいなものなんじゃないかとも思いました。
僕自身人口1万人いくかどうかの田舎町出身で上京した身なので、面白いだけじゃなく色々考えちゃうんですよね。
主人公の息子は「地元を盛り上げたい」熱意で仕事を辞めて田舎に帰ってくるんですが、僕は地元にそこまで愛着がないので無理だなぁとか。ご近所の距離感が近すぎて情報が筒抜けなところとか。両親的には自分に帰ってきてほしいんだろうなぁとか。
東京に住んでいると、これは「田舎の物語」と言ってしまいますが、日本に住んでいる人の大半は田舎に住んでますからね。これは「よくある普通の中年の物語」なのかもしれません。これ、主人公のような家業を継いで田舎で住んでいる中年男性が読んだらどんな感想になるんだろうか。
それじゃまた